本レポートは、株式会社電通デジタルとMomentum株式会社が2023年10月から11月に行なった、アドベリフィケーションスコアの調査結果です。日本で利用されている広告プラットフォームにて実際に広告配信を行い、アドベリフィケーションに関するスコアの推移を計測しレポーティングしました。主に、2018年にアドベリフィケーション推進協議会(※1)から発表した調査レポートとの比較と、入札戦略によるアドベリフィケーションスコアの変化という2つの検証を行っています。5年前からインターネット広告の環境はどう変わっているのか、入札戦略がブランドセーフティやアドフラウドに与える影響はどんなものなのか、レポートをご覧いただければと思います。この調査が広告主の広告配信に役立てば幸いです。
調査名称
:インターネット広告リスク調査2023
調査期間
:2023年10月6日~11月30日
調査方法
:インターネット広告配信
対象プラットフォーム
:日本国内で利用されている3サービス ※非公開
調査主体
:株式会社電通デジタル・Momentum株式会社
計測
:Integral Ad Science社
広告媒体費
:300万円
Adverificationとは、ad(広告)をverification(検証)という名前の通り、「広告を検証する仕組み」のことです。デジタル広告が登場してから20年以上経ち、どんどん便利で使いやすくなっています。しかし一方で、デジタル広告を配信・表示するテクノロジーが複雑化しており、気づかないうちにブランドイメージを損ねていたり、広告費が水増しされるリスクが存在します。そのような「正しい成果につながらない広告表示」を検証する仕組みが「アドベリフィケーション」です。
今回の調査結果と2018年の調査を比較すると、プラットフォームのみで対応可能なブランドセーフティとアドフラウドに関しては改善傾向にあり、広告主にとって安全な配信がなされる環境が実現してきていると考えられます。実際に広告が配信されるメディアも含め改善が必要なビューアビリティに関しては、一部対応が遅れている可能性があると思われます。
3つのプラットフォームそれぞれ Integral Ad Science社のツールにて計測を行いました。そのうち2つのプラットフォームでは、計測と並行して、アドベリフィケーション対策手法の1つであるブロッキング(※2)も行っています。
入札戦略によってアドベリフィケーションのスコアが変化するか検証したところ、一部のプラットフォームにおいては、CPA最適化(自動入札)を行うことにより、ブランド毀損リスク値およびSIVT率(※3)の増加が見られ、リスクが増加する傾向がありました。逆に、ブロッキングを行っていたプラットフォームでは、手動入札から自動入札に切り替えたことにより、ブランド毀損リスク値およびInvalid traffic(以下、IVT)の割合が下がる、という結果になりました。
アドベリフィケーションの認知拡大を目的に、アドベリフィケーションの概要をまとめた資料のダウンロードをコンバージョンポイントとして設定。ターゲティングは行わず、広くディスプレイ広告を配信した。クリエイティブは以下の通り。
また、各入札戦略の配信期間は以下の通り。クリエイティブの更新はしなかった。
・10月6日〜10月29日:手動入札広告配信結果は以下の通り、表にして羅列する。
配信費用 | インプレッション | CPM | CLICKS | CTR | CPC | CV数 | CVR | CPA | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
プラットフォームA | ¥995,665 | 19,899,929 | ¥50.03 | 6,805 | 0.03% | ¥146 | 79 | 1.16% | ¥12,603 |
プラットフォームB | ¥994,154 | 42,815,141 | ¥23.22 | 83,532 | 0.20% | ¥12 | 757 | 0.91% | ¥1,313 |
プラットフォームC | ¥990,000 | 7,332,411 | ¥135.02 | 1,283 | 0.02% | ¥772 | 6 | 0.47% | ¥165,000 |
デバイス | 配信費用 | インプレッション | CPM | CLICKS | CTR | CPC | CV数 | CVR | CPA | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
プラットフォームA | デスクトップ | ¥250,027 | 10,277,947 | ¥24.33 | 922 | 0.01% | ¥271 | 5 | 0.54% | ¥50,005 |
モバイル | ¥707,726 | 8,950,433 | ¥79.07 | 5,642 | 0.06% | ¥125 | 72 | 1.28% | ¥9,830 | |
プラットフォームB | デスクトップ | ¥49,235 | 7,099,528 | ¥6.93 | 3,843 | 0.05% | ¥13 | 8 | 0.21% | ¥6,154 |
モバイル | ¥932,373 | 34,551,317 | ¥26.99 | 78,775 | 0.23% | ¥12 | 741 | 0.94% | ¥1,258 | |
プラットフォームC | デスクトップ | ¥85,508 | 801,932 | ¥106.63 | 74 | 0.01% | ¥1,156 | 0 | 0.00% | - |
モバイル | ¥904,492 | 6,530,478 | ¥138.50 | 1,209 | 0.02% | ¥748 | 6 | 0.50% | ¥150,749 |
※デスクトップとモバイル以外のデバイスは除いた数値
デバイス | ブランド棄損リスク | IVT率 | ビューアビリティ | |
---|---|---|---|---|
プラットフォームA | デスクトップ | 1.23% | 2.35% | 61.25% |
モバイル | 0.56% | 0.81% | 45.13% | |
プラットフォームB | デスクトップ | 1.09% | 1.50% | 43.00% |
モバイル | 0.06% | 0.78% | 31.69% | |
プラットフォームC | デスクトップ | 0.03% | 0.20% | 77.37% |
モバイル | 0.01% | 0.11% | 16.30% |
本調査を行うにあたり、事前に以下の仮説を持っていました。
・2018年にリリースしたリスク調査レポートと比較
2018年からアドベリフィケーションに関する認知率や対策率が向上し、広告配信の環境としては改善している可能性が高い。どの指標がどれくらい改善しているのか可能な限り可視化したい。
・入札戦略によるアドベリフィケーションスコアの変化
各プラットフォームには、入札価格を自動的に調整し、「CVしやすいユーザー」に最適化した広告配信を行う入札戦略が存在します。検証期間内に、手動入札からそのようなプラットフォーム側の最適化が自動で働く入札戦略(以下、自動入札)へと切り替えた際、アドベリフィケーションスコアに違いが出るのかについて検証を行いました。 具体的には、以下の2点を検証しました。
1. CVしやすいがブランドリスクがある、もしくはIVT率が高いドメインへの配信が起こるかどうか
2. 逆に、手動入札の時点からブロッキングを行っている場合、ブランド毀損リスク値およびIVT率の高いドメインへの配信は排除されるため、自動入札後も安全性の高い配信が可能なのではないか。
・2018年にリリースしたリスク調査レポートと比較
事前の仮説のとおり、ブランド毀損リスク値およびIVT率に関しては改善の傾向にありました。特に、モバイルのブランド毀損リスク値に関しては、2018年から大幅に下がり改善していました。最も高いプラットフォームで0.56%、最も低いプラットフォームで0.01%でした。また、IVT率においてもデスクトップにおいては全て2018年を下回り改善しています。ビューアビリティに関してはプラットフォームごとに差が大きくなりました。デスクトップ、モバイルともに2018年を上回り改善しているのは1つのみで、残りの2つはデスクトップもしくはモバイルの値が2018年を下回っていました。
全体的な傾向として、プラットフォームのみで対応可能なブランドセーフティとIVTに関しては改善傾向にあり、広告主にとって安全な配信がなされる環境が実現してきていると考えられます。実際に広告が配信されるメディアも含め改善が必要なビューアビリティに関して一部対応が遅れている可能性があると思われます。
先述した通り、ブロッキング対策の実施は、配信プラットフォームの仕様に依存するため、プラットフォームAとCはブロッキングを行い、プラットフォームBはブロッキングを行っておりません。ブロッキングでは、Botなどによるクリックは元々の広告に紐づいているブランドLPにはリンクしない仕組みになっているため、自動入札におけるサイト来訪やCVユーザーとしての機械学習の対象からBotなどを除外することが可能です。その結果、ブロッキングの有/無によってもアドベリフィケーションのスコアに違いが見られました。
まずアドベリフィケーションに関する指標の結果から示します。入札戦略別のインプレッション数と、アドベリフィケーションのスコアは以下の通りです。
インプレッション | ブランド棄損リスク | IVT率 | GIVT率 | SIVT率 | ビューアビリティ | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
デバイス | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | |
プラットフォームA ブロッキング有 |
デスクトップ | 10,212,790 | 303,011 | 1.24% | 0.71% | 2.36% | 1.89% | 0.54% | 0.61% | 1.82% | 1.28% | 61.67% | 47.02% |
モバイル | 7,938,930 | 1,447,349 | 0.55% | 0.62% | 0.85% | 0.59% | 0.30% | 0.12% | 0.56% | 0.46% | 46.35% | 38.45% | |
プラットフォームB ブロッキング無 |
デスクトップ | 2,528,278 | 4,740,176 | 0.03% | 1.65% | 1.26% | 1.63% | 0.13% | 0.12% | 1.13% | 1.52% | 45.20% | 41.83% |
モバイル | 5,448,341 | 11,467,671 | 0.05% | 0.06% | 0.44% | 0.95% | 0.01% | 0.01% | 0.43% | 0.93% | 26.57% | 34.13% | |
プラットフォームC ブロッキング有 |
デスクトップ | 521,100 | 278,528 | 0.04% | 0.00% | 0.11% | 0.37% | 0.01% | 0.01% | 0.10% | 0.36% | 80.31% | 71.87% |
モバイル | 2,723,473 | 3,682,671 | 0.02% | 0.00% | 0.16% | 0.08% | 0.01% | 0.01% | 0.15% | 0.06% | 18.51% | 14.67% |
また、広告自体のパフォーマンスも見ておきましょう。
インプレッション | CPM | CPC | CV数 | CPA | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
デバイス | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | 手動入札 | 自動入札 | |
プラットフォームA ブロッキング有 |
デスクトップ | 9,745,200 | 532,747 | ¥20.21 | ¥99.60 | ¥242 | ¥491 | 5 | 0 | ¥39,393 | - |
モバイル | 7,391,363 | 1,559,070 | ¥24.06 | ¥339.89 | ¥51 | ¥248 | 23 | 49 | ¥7,731 | ¥10,815 | |
プラットフォームB ブロッキング無 |
デスクトップ | 1,941,473 | 5,158,055 | ¥7.66 | ¥6.66 | ¥26 | ¥11 | 3 | 5 | ¥4,956 | ¥6,874 |
モバイル | 14,412,405 | 20,138,912 | ¥25.20 | ¥28.26 | ¥28 | ¥9 | 59 | 682 | ¥6,155 | ¥835 | |
プラットフォームC ブロッキング有 |
デスクトップ | 520,236 | 281,696 | ¥80.02 | ¥155.77 | ¥1,189 | ¥1,125 | 0 | 0 | - | - |
モバイル | 2,773,120 | 3,757,358 | ¥120.07 | ¥152.11 | ¥532 | ¥980 | 4 | 2 | ¥83,243 | ¥285,762 |
手動入札から自動入札に切り替えた結果を簡単にまとめます。
・それまでCVが発生していたモバイルにインプレッションが偏り、CV数が増加しました(28件→49件)。一見CPM、CPCが高くなっているように見えますが、CVが増加したことにより、CPAは改善しています(手動入札時CPA:¥13,385→自動入札時:¥11,898)。つまり、単価は多少高くとも質の高いCVしやすい面に確実に配信できていた、ということができます。 ・それまで他プラットフォームより高い数値だったブランド毀損リスク値と、IVT率が改善しました。ブロッキングを行っていたことにより、最適化された際に無駄なインプレッションが減り、Botではなく人に対して配信が行われたと思われます。 ・ビューアビリティは手動入札時の方が高く、自動入札によりスコアが低下しました。
・ブランド毀損リスク値およびIVT率が悪くなってしまう結果になりました。手動入札時は0.03%だったブランド毀損リスク値が0.93%まで増加し、SIVT率も1.5倍ほど増加しています。
・数字上、CV数は大幅に伸びたように思われますが、注意が必要です。CV合計682件のうち、400件以上が1つのサイトで発生していました。また2番目に多いサイトも140件を超えています(3番目に多いサイトは20件)。この上位2つのサイトは同じ会社が運営しており、特に400件以上CVが発生したサイトのSIVT率は5%を超えていました。今回の検証では「CVしたトラフィックがSIVTかどうか」をチェックすることはできませんでしたが、明らかに異常値であり、広告詐欺の可能性が高いと思われます。
さらにどちらのサイトも代り映えのないコンテンツがテンプレート化されたデザインで、MFAサイト(※4)に該当すると考えられます。MFAサイトはトラフィックを有料で稼いでくるため大量のインプレッションを獲得しやすく、自動入札に伴うインプレッション数の増加の裏には、そうした質の悪い面への掲載も含まれている可能性があります。
・入札戦略に関わらず、モバイルのビューアビリティ以外は基本的に高いスコアで推移しています。 ・入札戦略切り替え後、ブランド毀損リスクはほぼ無くなったものの、デスクトップにおけるSIVT率がやや悪化しています。また、入札戦略変更後、予算消化が鈍化したため、一時的に日次の予算消化設定の調整を行いました。
2018年と比較すると、ブランド毀損リスク値およびIVT率は改善傾向にあり、広告主にとって安全・安心な広告配信環境になってきていると言えます。一概に理由を挙げることはできませんが、アドベリフィケーション自体の認知率および対策実施率は向上しており、プラットフォーマー側の対策も進んでいると思われます。広告主サイドもプラットフォーム選定の基準にリスク対策が入ってきており、デマンドとサプライの両方で意識が高まってきています。
まず、プラットフォームAとBの比較により、入札戦略の切り替えに伴うリスクが発見されました。ブロッキングを行っていたプラットフォームAは、自動入札切り替え後にブランド毀損リスク値とIVT率が改善しつつ、CV数を増加させることができました。逆に、ブロッキングを行っていないプラットフォームBでは、自動入札切り替え後にアドベリフィケーション指標が悪化するだけなく、実際に広告詐欺と思われるCVが多数発生してしまいました。
MFAサイトへの掲載リスクなどを踏まえても、アドベリフィケーションツールを用いた対策の重要性がうかがえます。
今回の調査では2018年の調査との比較のため、ブランドセーフティのうちブランドリスク計測のみ実施しました。ブランドリスクにはどのブランドにおいても最低限絶対に避けるべきリスクのみが含まれていますが、一般的なブランドセーフティには、クライアント固有の避けるべきトピックや時事問題など、重要性の高まるブランドスータビリティ(ブランド適合性)も含まれます。本調査ではブランドリスク値だけを見るとその指標は改善傾向にありましたが、ブランド毎に抱えるリスクが多様化する現在、ブランドスータビリティまで考慮するとブランドに対するリスクはむしろ増加しており、その危険性の理解と対策の必要性は、業界全体で取り組むべき課題と言えます。
※1:アドベリフィケーション推進協議会は、ウェブ広告におけるアドベリフィケーションの取り組みを本格化するために、 Integral Ad Science、Momentum、電通デジタル、CARTA COMMUNICATIONSらと共に発足しました。日本におけるアドベリフィケーション問題の現状把握と具体的な対策の研究を深化させるとともに、その研究結果を適宜ホワイトペーパーとして一般公表し、広告出稿時の一助となるような有益なデータの提供を目指します。
※2:ブロッキングとは、ブランドリスクやアドフラウドのリスクを広告入札後に判断し、リスクがある場合は広告表示がブロックされグレーアウトの代替バナーを表示させるアドベリフィケーション対策手法の一つです。クリックされた場合でも、元々の広告に紐づいているブランドLPにはリンクしない仕組みになっているため、自動入札におけるCV最適化の機械学習から、アドフラウドやブランドリスクのある面からの流入者を除外することができます。
※3:SIVTは、悪意のある無効なトラフィック(Sophisticated Invalid Traffic)のことを指します。IVT(Invalid Traffic=無効なトラフィック)の中でも、悪意を持って行われている広告詐欺です。人によるトラフィックであるかのように偽装しているものなど、様々な種類の無効なトラフィックです。違法なメディア運営者が広告主から支払われる報酬を作為的に増やしたり、正当なメディアから横取りしたりすることを目的としています。SIVTの手法としては、Hidden Ads(隠し広告)やAd Injection(広告の不正挿入)といったものが挙げられます。
※4:MFA(Made-for-Advertising)サイトとは、広告収益を目的で作られたウェブサイトで、変わり映えのない一般的なコンテンツをテンプレート化されたデザインで、コンテンツに対する広告の比率が高いのが特徴です。ページには広告が大量に貼られているため誤クリックを誘発しやすく、またトラフィックを有料で稼いでくるため大量のインプレッションを計測しやすい仕組みで作られています。広告主の広告予算の浪費につながる一方で、その他の優良なメディアが不利益を被るなど、デジタル広告全体への悪影響が指摘されており、昨今の生成AIの進化がMFA問題を加速させているといわれています。